あれから2年。2年か、1年と半分か、覚えているけれどよく分からない。
分からないなのか、どーでもいいのか、そんな事も分からない。
分からなくてもいい。分からない事は苦痛では無い。
俺にとって今までの生が、全く以てその程度だったのだと

耳元で叫ぶみたいに、叩きつけるみたいに、染み渡る、みたいに。
鮮やかで、激しくて、濃くて。
怖くて。

一瞬一瞬が、一挙手一投足が、傷になって膿んでいく
小さな小さな傷の、一つ一つが移ろう日々を彩りながら
俺を生かし、活かして往くのなら
きっとどーでもいい事なのだろう。








春がきて、夏に惑い、秋を憾んで、冬に憩う。
そんな毎日に漂う俺達は、今日も今日とて生きている。


「…あ!久保ちゃんそれっ、ズリィよ、っ、あっ、駄目だってばっ。」
「よく滑るでしょ?いいとこ狙って仕掛けるのは基本でしょうが。ね?」
「だからってあんなとこ、…ぅあっ、また!皮、だからやめ、ろって…!」
「だーめ。やめない。…もう直ぐ終るよ。どうするの?」
「〜〜〜くっそ、諦めっか、っあ!」
「…ほら。意地張らないで負け、認めちゃえば?」
「ほっざけ、い、うわ、あ……っ!!」


ピューン チャーララッチャッチャッチャッチャチャン チャラララチャッチャーン♪



「うっっがああああっ!!!納得出来ねええ!何でっんな速ぇんだよお!!」
「有効活用。バナナの皮は正しく使わなきゃ。」



マリカー敗者の時任は、夕飯と洗い物とゴミ捨て担当決定。
コントローラー放り出して頭掻き毟りながらう〜、とかあ〜とか言っている。
俺はと言えば、何度目かの記録更新。煙草に火を点けながら
次は何賭けよっかな、とスーファミ片付けて、64でも記録塗り替えてやろうかとか
考えて苦笑。

俺、明日の事考えてる。



「〜〜〜〜〜久保ちゃんっ!もっかい!再戦希望!もう一回だけ!」
「へー。いいけど、何賭ける?」
「更にかよ!!別に賭けなくていいじゃんかよお!」
「何か賭けなきゃ面白くないでしょ。ギリギリの状況でこそ発揮されるもんよ?
 技術と才能。」
「うううう〜〜〜〜……」

考えてる考えてる。

灰を落としてもう一口。淡い煙越しに空を見て、視線をずらす。
時任のうなじ。うっすらと生えた産毛。
その下に血液。骨と粘膜。細胞。汚物と代謝。感情と感覚。境界維持。
俺と同じ筈なのに、何でこんなに違うんだろう。


生れ落ちて、生きて。
きっと死ぬまで変らないこの運動は、休む事無く続いている。
連動している事が、生きていると言う事。
繋がりを絶つ事が、恐らく死ぬと言う事。
心臓が鼓動を一つ打てば血液は進む。
進む先で色々なものを背負って、代わりに置いていく。
失くした物を取り戻そうと、もう一度、鼓動を打つ。
巡り廻って辿り着いても、また失くすために進み、続く。
進み続ける事でしか証明出来ない事実があるなら
それこそを死と呼べばいい。

けれど僕は一進一退。
この場に留まり続けている。




留まる事は、罪ではないのに。





「久保ちゃん。」




時任が見ている。俺の目をじっと見ている。


「なあに?」


それが罰だと、言う様に。



「明後日の昼飯担当決定戦、でどう?」



ぷっ、と噴出した俺を真っ赤になって罵倒する。

やっぱりこれは罰なんだ。
君より先に逝く日の為に、俺が受け続ける罰。



違っているからこその、痛みなんだ。
君の存在が僕に思い知らせた。僕は連なって等いなかった。
欠けて、あまりにも欠けて、ギシギシ軋む身体のあちこちに
君が拳で捻じ込んだ、優しい苦痛に悶えている。
知らなかった痛みも、気付かされた苦しさも
進む事こそ理由なのだと
そこから身体を巡っている。巡り廻って形作る。

ならば甘んじて受け入れよう。
君の、傷になる為に。











そう。何度でも。


2011/11/13 (11/18 修正

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