※6巻後妄想。ネタバレ注意。






何がそんなにムカついたのか、よく分からないけど




船の時計を見たら、2時6分。いけ好かない奴だけど依頼は厳守。多分。
モグリの奴の知り合いは辺りを警戒しながら薬箱を渡して操舵室へ。
俺も久保ちゃんも何かボロボロで、海水シミまくりで無茶苦茶寒くて、ついでに眠い。
久保ちゃんはいい、って言ったけど、あからさまに肩の傷開いてるし
俺の手当てしてる間も、びしょ濡れのシャツが真っ赤になっていって
見てる方が痛ぇって、とりあえず上だけ脱がして用意してあったコート着せて。
眼鏡海ん中落としてきたから良く見えない筈なのに、包帯巻く仕草も真水で洗う手も的確で
やっぱし指細くて長ぇなーとか、場違い過ぎてちっと笑えた。
漸く俺の手当てが終ったみたいで、今度こそ久保ちゃんの手当て!って言ったのに
久保ちゃんは笑って煙草に火を点けただけ。
コートの隙間から覗く素肌に、少し色の薄まった血が腰まで垂れて
真っ黒な夜の海は、月の光を反射してゆらゆら青く光っていたけれど
セッタの先に灯った火の、あったかい色が映し出した肌はもっと、ずっと
気味悪いくらい青白くて。

無理矢理コート剥いだら

「いやん、エッチ。」

とか。ムカつく。



包帯を取り去って、ぐっしょり濡れたガーゼ千切るみたいに放ったら
赤黒い穴が開いていた。
さっきまで居た船の上で、俺の手が開けた穴を思い出す。
俺の手に重なった、筋張った手を思い出す。
あいつら久保ちゃんの昔の仲間だったらしい。どーでもいいけど、だったらしい。
そこまでしても、生きている。
何でか分からんくても、嫌だったから、生きている。
ちゃんと、分かりたいから。
俺は生きている。
でも。


「いらない、とか言うな。」


呟いた俺の顔を、小首傾げて見つめる目を
出来得る限り真直ぐに、俺の心を乗せて見返す。


「久保ちゃんがいらなくても、いらないとか言うな。
 久保ちゃんのモンは全部俺のモンだ。俺の許可無くいらない、とか
 ゼッテー言うな。」


少し驚いた顔で俺を見る。その目が少し、ほんの少しだけ、縋るみたいで。

何か無性にムカついたから、帰ったらあの時計押し付けて
もういない人の話、根掘り葉掘り聞いてやろうと心に決めた。


















吹く風を 忽来の関と思へども 道も狭に散る 山桜かな

(作/源義家)


2011/11/11

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