若かりし頃のヒョゴ。流血表現有り。始終青臭いです。














声は、結局は音でしか無いと云うのに、何故声帯を通していない音だけでは
声を表現し切れないのであろうか。
其れは、真っ新な空気が、振動し音として発せられる由りも以前に、
脳から伝達される感情を、其の滑らかな身体に絡め取って口から飛び立つからであろう。
たった其れだけの違いで、全てががらり、と意味を変える。
自己の主導権は、意思や自我の類では無く、肉体其の物に有るのだと思っている。
例えば、食欲や、睡眠欲や、性欲と云った物は、己の意思とは無関係の場所から
湧き上がる物であり、仮令意識的に拒絶を示した所で、腹が空腹を覚えれば
不快な気だるさで食を求めろと喚き、眠りを貪る事を放棄すれば、
朦朧とする意識と、重力に引かれる侭に落ちて往く瞼とで、
膝よ、さあ、崩れてしまえ、と金切り声を上げる。
性欲に至っては、其れはもう此れこそが動物的で、無思慮な肉の塊の
根源であるかの様に振舞い、鬱陶しい事此の上無い物であるが、
精神の成長と共に姿を現す其の傲慢な動物も、現在の科学力の前では
存外に容易く手懐けられる程度の物で、戦場の地に在って、其れに苦労する事はまず無い。
食欲も、睡眠欲も、亦然り。刀を揮い、敵を斬る為だけの命に、
生物としての欲求等と云う物は不要、と隅々迄染み込んだ無味の異物は
最早異物では無く、身体と云う型に見合う姿をして、すんなりと此の身の奥へと落ちて往く。
牙を失った獣の衝動を想う度、こうして人は進化の停滞を乗り越える振りをして
断頭台への道をひたり、ひたり、と突き進んでいるのだ、と
正常な身体から掛け離れていく己を、特に何の感慨も無く捨てて往く。
其れこそが異常なのだ、と思う心すら、知らぬ裡に捨てて来た。
何処に捨ててしまったのか、分からなくなってしまった。
だが精神とは不思議な物で、とうの昔に捨ててしまった物であっても
飯の香りを嗅げば、嗚呼、美味そうだ、と感じるし
女の身体の艶かしさも、視界の隅に捉えては甘い香りに酔いもする。
主導権を放棄した肉体の代わりに、己の往き先を示す手綱を握るのも
脳、と云う肉の塊でしか無いと云うのに、其処に宿る物の存在を確かに感じるのだ。
心とは、何であろうか。肉の末端から発せられる、電気信号の瞬きであろうか。







しとしと、と雨粒が頬を伝う。

静寂

嵐の前の静けさ、とは良く云った物だ。
嵐が来る事を事前に知っているからこその静寂であるのだから、
其の実、此の場に在って静けさを保てる者等、そうそう居るものでは無い。
誰も口を開こうとしないのは、此の静寂を破ってしまう事への恐れからか、
声を発した所で、誰も答えはしない事等分かり切っているからなのか、
何方にせよ、放り出すだけして、其の辺に転がる己の呟きに、惨めに為るだけだ。
もしも皆が皆、頭の中を全て曝け出してしまえば
忽ち声と声とがぶつかり合って、障害物等無くとも反響してしまいそうだ。
全員が自尊心と孤独とを天秤に掛けてくれたお蔭で、
此の静かな空間を侵される心配は無さそうだ、と
伏せていた瞼を押し上げた。
遥か彼方迄続く薄汚れた雲の天井に、薄らと透ける陽の光。
時折がたん、と揺れる車体に跳ねる雨が、眼鏡にぶつかって雫に為った。
屋根は付いているが、一番外側に押遣られた身体は既に濡鼠に近い姿に為っているが、
不平を述べた所で、乾かす手立ての有る訳でも無し、震える身体を膝を抱える事で紛らわした。
空の果てから見下ろした一面の深緑の中に降り立って、数刻。
あの雲の上に居たのだ、と思うと、不思議と違和感を感じない自分に気付いた。
眼下に見ていた世界を、遠い異国の地の様に感じていた日々が遠く褪せて、
見上げた先に広がる果ての無い空間こそが夢の様で、矢張り己の今在る此処が
己を育み、生かして来た場所なのだ、と思い知る。
しかし、其れも一度空へと上がってしまえば、忘れてしまうのだろう。
足の下に在る感触の有難味は、当たり前過ぎて、いとも簡単に零れて落ちてしまう。
其の事を思い出せただけでも、地に下りて来た甲斐は有ったのでは無いか、と思う。
此の先に待つであろう死を思えば、まるで己に贈られた、手向けの様な懐かしさを噛締めた。


此の作戦が、どれ程無謀な物であるか等、云われずとも誰もが承知していた。
送り出されたのは生身の侍のみ、しかも戦場の経験の浅い、若侍を中心に寄せ集めた中隊であった。
生身の我等は小回りが利く、本隊と敵の交戦中に背後から奇襲を掛けよ、との命であったが
機械化された侍達を主軸とする戦の流れは、生身の侍を使い捨ての駒の様に扱う様相を日増しに強くしており
今回の作戦も、奇襲と銘打ってはいるが、少しでも敵を減らせれば御の字、
せめて最期くらいは役に立ってみせろ、と暗に力無き者は不要だ、と云われている様な物であった。
詰りは、我等は切り捨てられたのであろう。本当の、捨て駒に為れと云渡されたのだ。
同じ年の頃の者達でも、財有る者は機械の身体で空に在り、戦の中に其の身を置いている。
所詮、今の世を生きるには金と後ろ盾が必要だ、と云う事だ。
不満が無い、と云えば嘘に為る。培って来た腕を、存分に揮える時代に生まれなかったのが不運だったのだ、と
諦めてしまえば其れ迄だが、金が無い事を恨む気にも為れなかった。
幼い時分から、豊かさとは縁が無かった。決して貧しい、とは云わないが、
其れでも周囲の武家の者達から比べれば、天と地程の差が確かな格差として有った。
人間関係には恵まれていたのだと思う。友人達の多くは己の貧しさを蔑んだりはしなかったし、
父も母も、己の成長を優しい眼差しを持って見守ってくれていた。
貧しくても、恵まれていた筈だと云うのに、己を駆り立てた物は一体何だったのであろうか。
昔、母が云っていた言葉を思い出す。
刀を持つ、と云う事は、誰かを虐げる、と云う事。誰かの命の上に立って、貴方は平穏を得るのです。
驕る心は何一つ生まず、貴方を侘しく卑しい物に変えるだけ。忘れてはなりませんよ、と。
其の時は、其の言葉の意味が良く分かっていなかった。否、今も、分かってはいないのだ。
侍とは、人を斬ってこその侍。御仕えするに値する主君と、其の御身に仇為す者には制裁を。
敵を屠って、殉ずる事こそが誉れ。皆が皆、然う云っていると云うのに。
皆が寝静まるのを見計らって、家を出たあの日の己の前には、何処までも開けた世界が広がっていた。
然う、感じた。新しい世界。今の己に、何も恐れる物は無い、と。
あれから数年の月日が流れ、文の一つも送らずに此処まで来た。
生きて故郷へ帰る心算は端から無かったのだから、筆を取る気も起きなかった。
あの穏やかな地に心を寄せる余り、眼前の敵を疎かにするくらいならば、自ら死を選ぶべきだ、と。
何と云う愚かさだろう。
何時から忘れてしまっていたのであろうか。捨てて来て、しまったのであろうか。
今の己を得る為に、引き換えにした物は、過去の己自身。
別段生身で有る事を誇りとしている心算は無い。愛着が有る訳でも無い。
其の程度の誇り等、初めの裡に捨て去れる物の一つであろう。
けれど今、雨に濡れる感触を其の身で感じていられるのは、まあ、悪く無い。
其の感触を、好ましいと思える己を育てて来た環境も、人も、悪くなかった。
厳しくも優しく、慎ましく生きて来た父や母を否定してまで、機械の身体を欲したいと、
血の通う身体を、己に至る迄に続いて来た命の全てを捨て去ってまで、力を得たいと、
然う思わずに死んで往けるのなら、其れで良い様な気がした。
此の世の中に星の数程存在する命の全ては、其の一つ一つが、細胞の核の様な物では無いか、と考える。
何を構成する細胞なのか、と云えば、世界。此の星の細胞、全ての世界の一欠けら。
細胞には、身体を円滑に、良い状態を保つ為に、自ら死んで往く性質が有るのだと聞いた。
身体を正常に保つ為に、遺伝子の奥底に刻み込まれた記憶。
其れは、生物の存在其の物の様だ、と思う。
世の中に生命が溢れ続ければ、何れは納まりが利かなく為るだろう。
何時かはぱちん、と音を立てて破裂してしまう。
だからこそ、何処かで整理する必要が有るのでは無いだろうか。
人が増えれば飢饉が起こり、病が流行る。
命が、淘汰されて往く。
質量保存の法則、とも云えるのであろうか。
初めから決められているのだ。我等全て、在り方を魂に刻んで生まれて来る。
今、空の上で繰り広げられている戦も、然うした世の一つの答えなのかもしれない。
己の死も、きっと然うなのであろう。
皆、死を、望んでいる訳では無い。
仮令何時かは必ず訪れると分かっていても、
死に抗いたい、逃れたい、と。
けれど、己の死によって、
世界が滞る事無く巡って、
流れて往く
命が巡って 続いて往く
其の先頭に 今 己が在る
死を記憶する身体の中で生きている
故に 生きる事は 尊い
死を実感する事でしか
そんな当たり前の事にすら 気付けない
大地の温もりも 父や母の優しさも
簡単に忘れてしまえる物だからこそ
愛しいと思える 忘れずに 記憶して生きて
果てて往ける
心の底では 未だ死ぬ気等、更々無いと云うのに、
意地でも生き残って、もう一度忘れてのうのうと生きて遣る、と
思っているけれど
今は、心が静かな事が心地良い
此の侭死んで往ければ良いのだが、と此の感覚を脳に刻み付ける様に思う。

頬に降る雨は、もう直ぐ雪に変わるであろうか。
身体の芯から冷やして吹く風に、もう一度雪を見る事は出来ないのかもしれない、と
其れだけが、唯何となく心残りであった。












敵陣の背後に聳える山に到着すると、後は待つのみであった。
既に視界は戦の色に染まり、ゆるり、と侵食されて往く景色に雨が降る。
もう少し、奴等が此方に気付く前に、本隊が敵を山肌に追い込む迄。
皆の緊張が痛い程に皮膚を焼いたが、其れすらも心地良い。
どうせ死ぬのなら、最期まで生きて遣ろうと、思えた途端に視界が開けた様に感じた。
死ぬ気等無くとも、今死ななくとも、死ぬ事は決まっている。
精一杯、全身全霊で生きる事が、後の世の流れに繋がれば、其れで良い。
我ながら達観した物の考えが出来る様に為った物だな、と不意に笑みが零れた。
此れが成長、と云う物だろうか。遅過ぎたのであろうな、身体ばかりが先立っていたのだ、と
今更乍ら、幼い己の矮小さに気付いた。
もし最期に為るのなら、良い物に気付けた、と
掌を握る力を、強くした。

其の時、眼前の敵陣、二の丸に炎の柱の上がる姿を捉えた。

皆が立ち上がり、駆け出した。悲鳴の様な怒号を喉を潰す様に、迸る様に叫んで、飛ぶ。
茂る大木を足場に、上空を埋め尽くす機械の侍達に向かって、舞う。
不意の襲撃に一瞬反応の遅れた雷電を、一刀の下に金属片に変える。
爆発する直前に相手の身体を蹴る。爆風に乗って、次へ。
此方の存在に気付いた鋼筒や兎跳兎達が一斉に向かって来る。
我等が生身と知ると、其方も小回りの利く者達が集まるのは当然であろう。
図体のでかい者達は、本隊の相手で忙しいのだ。
其れでも与えられた命を守ろうと、紅蜘蛛に取り付こうとした者が、斬艦刀に押し潰される様に
拉げて、血の滴る肉塊に為った。近くに居た者達は、頭蓋の砕ける鈍い音すら聞こえた事だろう。
人間だったのか如何かも、分からなく為って地上へと落ちて往く其れを見遣り、
怯んだ者達は鋼筒の大刀に拠って真二つに裂かれた。
断末魔の悲鳴が短く聞こえた。残りは爆音に掻き消されてしまった。
助けに寄ろうとした若者達は、我に返った様に刀を構え、飛び掛って往ったが
何人かの者は構える迄の間に胴や腕を断たれ、先に落ちて往った者達へと続いた。
其の様を視界の隅に捉えながら、微かな迷いを振り払う様に突き進む。
耳がびりびり、と裂かれる様な轟音の中、刀を揮い続けた。
生きろ
生きろ
生きろ
生きて遣る
生きて遣る
終るなら
生きるだけ、生きてから
頭の中で、叫び続けた。口から溢れるのは、己の物とは思えぬ獣の叫び。
嗚呼、人も、己も、矢張りは唯の動物だ。
魂に 生も 死も宿し続ける。
野生を秘めて、飛ぶ。
頭上には薄汚れた雲
眼下に広がるは深緑の床
炎の煙り 硝煙の立ち込める空を飛ぶ。
眼を爆風に巻き上げられた塵が、一瞬だけ遮った。
瞬間、腹部を灼熱の衝撃が通過した。

平衡感覚を失った身体が、後方へと弾き飛ばされた。
何が起こったのか、瞬時に痛みの訳を探ると、
腹の一部が抉れて、景色の流れる方向とは逆に血潮が筋を描いている。
前方を見遣ると、鋼筒が此方に向けて銃を構えていた。
どすん、と辺りの爆音に掻き消され、其れでも確かに銃声が耳に届き、
鋼筒の太い腕が、反動で跳ね上がった。
咄嗟に刀を片手で構え、迫り来る衝撃に備えた。
弾丸が刃に当たって爆ぜる。息が詰まり、視界が白く染まる。
声を上げる事も出来ずに、落ちて往く。
何故、人は空を飛べないのであろう。飛べる鳥ですら、此処から抜け出せないと云うのに。
然う、命有る者全ては、星の細胞の一つなのだ。

抜け出せる訳等無い。
逃すまい、としているのだ。重力と云う、枷を嵌めて。
















瞼をゆっくりと開く。背は地に縫い付けられていた。
身体が思う様に動かない。下から痺れが広がって、耳も上手く聞こえない。
木に当たったのであろう、思いの外傷は少ない様ではあったが、
思考が働かない。頭を打ったのかもしれない。
視界が揺らぐ。景色が二重に、色もおかしい。

静かだ
俺は、死ぬのか
死か
まだ、生きているか
死は、どこに往った
己の意味は
細胞だ
唯、其れだけだ

静かだ

何か 飛んでいる

虫か

羽虫が飛んでいる

赤い

羽虫

あれは 火

火に入る虫

自ら身を

焼く

人間も

動物も

随分と昔に忘れてしまった

恐れを覚えてしまったから

本能

本能の 姿だ

剥き出しの 命だ


嗚呼、何て、美しい































気が付くと、見覚えの無い天井が視界に飛び込んで来た。
跳ね起きようとするが、全身に走る鋭い痛みに、小さく呻いた。
詰まった息を意識して吐き出す。眼の先には、白い布団の波。
此処は何処だろう、と視線だけを動かして探ると、他にも何人か寝ているのが見える。
野営の陣地か、何かだろうか。よくよく見れば、衛生兵の男達が
薬を持って歩き回っている。
少しだけ身じろぐと、其れだけで亦呻いてしまいそうになった。

生きて、いるらしい。

鉛の様に硬い身体を必死に宥めていると、衛生兵の一人が此方に気付いて
近寄って来た。思わず身構えて、今度は盛大に呻いた。

「気が付きましたね。御無事で何よりです。」
「……俺、は、」
「山間部で倒れているのを、我等が保護致しました。
 腹の出血が酷く、正直危ない所でした。頭を打ってらっしゃいましたし、
 意識が戻るか心配していたのですが、何か違和感等有りますでしょうか?
 眼は、見えていますね。」

此方を覗き込む男の顔は、事務的な色を濃くしていたが、其れが彼等の仕事だ。
無遠慮に頭やら腕やらを触り、記帳する姿を見ていると、あまりに暢気で
先程迄の凄まじさが嘘の様であった。

「…どれ程、眠っていた?」
「二日です。早い方ですよ。」
「二日…」

よく其れだけ寝ていられる体力が残っていたものだ、と思わず感心してしまった。
夢を、見ていた様な気もするが、ぷつり、と切れてしまった様に記憶が飛んでいた。
暗闇に落ちる寸前に、何か、酷く無垢なものに触れた気がする。

赤い

然う、赤い翅。途端に何かが脳裏に蘇る。あれは、羽虫の姿だ。
美しい、虫だった。存在の美しさが、記憶の中枢を焼いた。
あれは、何だったのであろう。今際の際に脳が見せた残像であろうか。
何の残像だと云うのか。分からない。
記憶のあちらこちらを彷徨う意識を持て余して、知らぬ裡に口が動いた。

「…虫が、」
「はい?」
「虫を、見た。赤い、羽虫だった。」
「……大丈夫ですか?」

哀れな者を見る様な眼で見るな、と弱く睨み返すと、
縮こまる様にして、いそいそ、と去って往く背を見遣る。
男の背の先に、こじんまりとした窓から射す淡い光を捉えた。
其の光の揺らぐ様に、思わず見入る。

雪が、

嗚呼、そうか。生きている。確かに、己は生きている。
痛みも、記憶も、曖昧な肉の塊に宿る魂だとしても。
屍の為る寸前の、白昼の夢だとしても、生への実感を感じるのだ。


深々と降る雪の影を見遣りながら、己は其れでも母への文は書かぬのであろうな、と
愚かな己を笑う為に、布団の端を掴んで潜り込んだ。









夢の中で、己は水底の赤虫と為り、空を仰いで蠢いていた。
己も、あの場所へ。然う夢見て泥を啜る。
泥は腹に溜まるばかりで、血にも肉にも変る事無く、唯肥えて往く此の身を、
何時の日にか、軽く飛ばす夢を見続けて、泥を啜る。
汚れた乳白色の雲に映える赤を思い出す。
苛烈の炎の中へ、すう、と筋を描く様にして飛び込んで往った。
掠れる程の影であったと云うのに、他のどの記憶よりも鮮明に残る姿。
自ら望む訳でも無いのに、火に入り、衝動に身を焼く。
翅音が、木霊する。
あの小さき小さき塵の様な姿を、誇らしげに震わせて飛ぶ残響であった。
其の姿は、正に、脳の奥底に刻み込まれた生命の記憶其の物の様で、
戦の空へと戻り、父や母の優しさも、大地への愛しさすらも何時の間にか磨り減って、
いとも簡単に薄れてしまった生への渇望を、片隅に追い遣る様に為った頃にも、
表皮に焼き付いて、消える事は無かった。




今一度、問う。心とは、何であろうか。
強く強く、刻まれる記憶に、血の巡りは意味を為すのであろうか。
個としての、己の真実とは、何処に。






雲間の光は余りに遠く、願う心を知りもせず、
不意の金糸の煌きに拠って、世界は動く。

















あとがき

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