※注意書き
全く救い様の無い内容と為っております。男前のLが好きな方は読まない方が良いかと思われます。
こんなんでも本人は 月L だと思っています。でもL月でも通用します。
心得た!と言う方はどうぞ↓












































「月くん?」

先程からぴくり、とも動かない身体に指先で触れてみる。
弾力の有る肌は熱を持っているが、赤や紫、或いは黒に変色したそれは
所々血が滲んで、以前の面影、と言える箇所は見当たらない。
眼を見れば彼だ、と分かるのだろうが、あの強い意思を秘めた瞳は
今は黒いラバーの目隠しによって視界の内には無い。
外界の光から遮断された瞳は、それでも全てを見据え眼光を放つのだろうか、と
目隠しに手を伸ばしたが、それでは意味が無いのだと気付いて止めた。
軽めに頬を叩いてみるも返る反応は無く、思い切り力を込めて拳を打ち付ければ
まるでボールか何かの様に弾んで、ごとりと派手な音を立てて沈黙した。
期待を胸に歩み寄って、真上から覗き込んでみたが、顔や身体の位置が違うだけで
矢張りぴくりとも動かないのであった。
よくよく見ると鼻と口以外にも、てらてらと輝く鮮血が床を濡らしており、
耳から溢れて一筋の線を描いた赤が、私と彼との境界を引いているかの様で、
ああ、

「やってしまいましたか。」



















ばたん

扉を閉める。
業務用と言うだけあって、扉も家庭の物とは段違いの厚みを有しており
機密性も十分であろう事は見て取れる。万が一、長期間の停電等により
彼が腐り始める事があったとしても、そうそう騒ぎになる事も無いだろう。
騒ぎ、と言った所で、此処には私とワタリしか居ないのだから
見つかった所で内密に処理されるのであろうが、あのワタリに
こんな事で苦労を掛けるのも忍びない。何はともあれ、一つの悩みの種が消えたのだ。
存外に響く駆動音が耳障りな、巨大な冷凍庫を背後に据え、するり、と部屋を出る。
部屋の扉を閉める瞬間、銀色に光る姿が視界の隅を掠めたが
網膜の表面に刻まれた残光も、暫くすると周りの景色に融けて消えた。



























「御待たせしました。」
「有難う。」

白いカップの取っ手を軽く抓まんで持ち上げる。
鼻先に近づけると、珈琲独特の甘酸っぱい様な、仄かに鼻の奥を擽る香りが
そのまま脳の奥にまで届く。いい香りだ、と瞼を閉じてその感覚を楽しんだ。
だが、これだけでは飲めない事は、自分の味覚から分かり切っている事なので
テーブルの上にさり気無く置かれている砂糖の瓶を引き寄せ、蓋を開ける。
四角く、ころころ、とした塊を4,5個取り、カップに投下した。
スプーンでかき混ぜればざりざり、と言う感触が指先から伝わり、
それだけでも口の中に甘味が広がるかの様な錯覚を覚える。
ふと、スプーンを持つ手の甲が、赤く爛れている事に気付いた。
拳を作るとどうしても突出してしまう、人差し指から小指までの中手骨頭周辺が
熟れ過ぎた果実を割った様に皮膚の内側を晒している。
規則正しく並んだ赤い実。所々白い物が覗いていたが、痛みは無い。
見ればもう片方の手も同じく、赤い実が並んでいる。
時間の経過と共に赤黒く腐り、黄色い膿を出すであろう事は
珈琲の香りに混じって鼻腔を突く、奇妙に甘い匂いが物語っているが、
掌を翳し、窓から射す陽光に照らされたそれは、何か酷く美しい物に思え、
暫しぼう、とその赤い実の熟れた様を眺めていた。
ああ、そう言えば、溶かし込んだ砂糖の行方を確かめるのを忘れていた、と
すっかり冷めてしまった珈琲に口を付けた。
まだ苦い。
眉根を寄せて舌先の苦味に不満を覚えつつ、瓶の蓋を開ける。
けれども其処に有る筈の角砂糖が無い。何処に行ったのか、考えた所で答えは無く、
それよりも今はこの苦味を何とかしてしまいたかった。
直ぐにワタリが新しい砂糖を持って来た。
一つ摘み上げてそのまま口に含む。
甘さがじわり、と口の中に広がり、その食感が何とも心地いい。
砂糖の粒の残った指を舐め、ふう、と溜息を付いた。
何故か、クランベリィのタルトが食べたい、そんな考えが脳裏を過ぎる。
手の甲に実る赤い実が、そうしているのだろう、と傍に控えていたワタリを見遣ると
砂糖を運ぶ際に使ったトレイの上に、鮮やかな赤を湛えたタルトが今や遅し、と待っているのであった。
思わず笑みを浮かべて、流石はワタリ、私の事を熟知しているのだな、と関心して
テーブルに置かれた皿に手を伸ばした。
歯と歯の間に納まった赤い実は、僅かばかりの抵抗も無く潰れ
溢れ出た果汁を引き連れて胃に落ちた。
まるで硝子を食んでいるかの様であった。


















仕事を一つ片付け、これで暫くは余裕が出来た、と部屋を出る。
と言っても、Lとしての仕事以外にも様々な名を持つ私には休み、と呼べる物は実質無いと言っていい。
だが、Lとしての仕事が無ければ、その他の依頼は取るに足らぬ、
情報さえ揃っていれば数秒で解決出来てしまう様な物が殆どであり、
私にとって見れば、余裕が出来た、と言える期間なのであろう。
今居るこの場所も、もう直ぐ引き払って次の拠点へと移動する事になるが、
特に馴染みの深い場所では無く、そんな事は日常茶飯事であるので
兎に角今はゆっくりと脳を休ませて、次に供えよう、と私室として利用している部屋に向かった。
上質な床の感触が素足を撫ぜ、数日寝ていない事もあって
一歩進む度にくらりくらり、と眠りが歩み寄って来る。
別段ベットで寝る必要も無いのだが、たまにはこんな日があってもいい。
泥の様に眠れる気がする。悪く無い。
眠りを夢見る様に歩みを進めていた私の耳を、ふと、微かな違和感が横切った。
振り返ると、一片の嘘の様に、扉が壁の隙間で息を潜めている。
蝶番の向こう側から洩れる音は、暗がりから手を伸ばして此方を招き入れるかの様に臓腑を揺らした。
地鳴りを思わせる機械的な反響は、広く長い廊下の隅々にまで届かんばかりに耳を侵して、
知らぬ内に扉の前に立つ私を、私から遠ざけて更に深く響いた。
取っ手に手を掛けると、それは存外に容易く私を受け入れて、部屋の中へと吸い込まれていった。
目の前の壁際には巨大な冷凍庫がひっそりと佇んでいる。
ごうんごうん、と耳障りな駆動音を響かせて、明かりの無い部屋の全てを掌握している。
彼を孕んで、其処に居る。
誘われるままに部屋の中へと足を踏み入れると、光に慣れた両の眼が、
薄闇の中でそれでも鈍く光る銀色の素肌に、一瞬の闇を見た。

ああ、そうだ。
何故、此処に、こんな物が有るのだろう。
一体何時から、此処に有ったのだろうか。
私は、何故知っていたのだろう。


指先が、触れる。




































「L、新しい仕事の依頼です。」
「ああ、今行く。」

部屋の扉を閉めて、元来た道を引き返す。ワタリも後に続いた。
休む暇すら無かったな、と溜息を付く事すら無く上質な床を歩く。

「ああ、ワタリ。」
「はい。」


「夜神月は、今どうしている?」


「…何も変わりはありません。普段通りです。」
「そうか。」



















deep-freeze : 急速冷凍での保存 現状の凍結 急速に冷凍する




あとがきの様な物

2007/3/31

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