結局、私は何をしたと言えるのだろうか。
土が水を吸う様に消えていった巨額の資財も、
命を懸けると自らに誓った人々の存在も、
一行にも満たない、たった何文字の連なりによって、
いとも簡単に散った数多の命すらも、
私にとって見れば、この戦いの付属でしか無かったと言うのに、

私が残せた物は、唯、そうした浪費の事実だけなのだろう。









私の眼は、もう直ぐ闇すら届かない程、虚ろな所へ落ちて行く。
私は私の形を失って、過去であり、未来であり、私を含めた全てである何かになってしまう。
それは、最早「私」と呼べる物では無く、
私という事象を、誰かが引いた白線の向こう側へ放り投げて、
放物線を描く前に中空に霧散する粒子の影にまで還元される。






私の存在だけが、あの場所から切り取られる。

不意に去来する残像だけを残して。

















私が私でいられる僅かな時間を、私は私なりに、全力で走って来た心算です。
私の指は、せめて貴方に何かしらを刻んで往けたのでは無いかと、
微かな期待を持つ事で、私は更に沈んでしまうのでしょう。


貴方と私は似ているから、
貴方の言葉を容易に想像出来てしまう、この鏡像の様な心が、
掠れ掛けた意識の片隅に、一抹の寂しさを落として去って往くのです。






私は、貴方の痛みにすら、為れなかった。








彼が笑い続ける限り、私は彼に敗北し続ける。

繰り返し、繰り返し、繰り返し、

私は死んで往く。







私達の意志は、何れ誰かに渡って往くだろう。
強い心と、少しの傲慢によって、後の世代に受け継がれて往く。

けれど、この想いが誰かに届く事は、きっと、無い。

近い将来、彼が膝を屈する日は、必ず訪れる。
新しい息吹に、古い力が薄れて往く様に。
貴方は、貴方が持ちうる限りの力でもって、
何かを巻き込んで、消える事の無い傷を誰かに刻み付ける。


それでも、

世の摂理のままに、世界の片隅で静かに消えて往くのでしょう。




その時、彼は何を見るのだろう。何を、想うのだろう。


せめて、貴方以外の、誰かの姿であれば良いと、



切に、願う。




この想いを連れて、私は逝く。







それだけが、とても悔しい。












魂よりも尚近く、五指に渡って須く、寄り添い此の血を伝え給う。
流るる事を其の小さき心で、届け、届け、と叫ぶが如く、
爪の先から声無き声を、君に注いで果て給う。
我、此の掌の裡に宿るは、唯、君が為に。

けれど、貴方はそれすら拒絶して、先に進むのですね。




2007/3/3

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